B.B.キングからのプレゼント


午後10時からラスト・ステージが始まり、
30分間バック・バンドによる演奏が行われた後
B.B.キングが大声援に包まれながら登場した。

その時、私の頭の中は「バラ」の事で一杯だった。
いつ渡したらいいのだろうか?
どんな事があっても、進行の妨げになるような渡し方はしたくない。
タイミングを逃さないよう、緊張しながら演奏を聴いた。

BBは「I NEED YOU SO」「NIGHT LIFE」を思い入れたっぷりに歌う。
ルシールの声は、官能的な艶と母性的な安らぎをあわせ持っている。
よくギターは女性の身体にたとえられるけど、
まさしくBBは、ルシールを「最高の女性」に仕立て上げた。

「CALDONIA」を歌うBBの声は明るく弾み、
ホーン・セクションが華を添える。
この曲はBBが大好きなルイ・ジョーダンの曲。
BBは数年前にルイ・ジョーダンのトリビュート・アルバムを作り、
その中で以下のようなコメントを載せた。

「ルイ・ジョーダンは素晴らしいミュージシャンだった。
僕個人の意見としては彼は時代を先取りしていたのだ。
ビッグ・バンドとスウィング全盛の時代に、彼は最初の
リズム&ブルースで成功したミュージシャンだった。
彼独特のビートは人々を魅了し、躍らせた・・・」

「EARLY IN THE MORNIN'」
再びルイ・ジョーダンの曲を取り上げ、嬉しそうに歌う。
陽気におどけながら、
サックスを吹くルイの姿がオーバーラップして浮かんできた。
BBの心の中には、
彼が愛する偉大なミュージシャン達の音楽がいつも流れているのだ。

その後BBは、間奏部分で「メリルヴィル」にスポットを当て、
客席に向かって語りかける。
「ここはスポーツが盛んな地域で、
おいしい食べ物もたくさんありますね!」
「ハンサムな男性と美しい女性が多い場所ですね!」
BBは20代の初めにメンフィスでDJをやっていた。
だから話術も巧みで、話の内容もウィットに富んでいる。
みんなBBの話に笑いながら相槌を打つ。

ライヴも佳境に入り、「THREE O'CLOCK BLUES」が始まる。
続いて「IT'S MY OWN FAULT」
「NOBODY LOVES ME BUT MY MOTHER」と
スロー・ブルースのメドレーが流れる中、
私はこのメドレーが終わった後、BBにバラの花を渡そうと思った。

いつのまにか「HOW BLUE CAN YOU GET」のメロディに移行。
BBの表現力に一段と熱が入り、
女性の「キャ〜!」という悲鳴が至るところであがっている。
私はそれまでドキドキしながら彼の歌と演奏を聴いていたのだが、
ある瞬間からピタッとその気持ちが消えてしまった。
魂を込めながら歌を歌い、
ルシールに己の感情をこれでもかと注ぐBBの様子を観て、
「1本では足りない!あふれるほどの花束をあげたい!」
という積極的な気持ちへと変化していったのである。

バックの音が止まり、BBがエンディングのフレーズを弾いた時
私はバラの花を持ってステージの方向へ走って行った。
ステージの下でスタンバイする。
最前列に座っている人達が振り返って私を見る。

「もうすぐ・・・」と思って心の準備をしていたら、
いきなり「KEY TO THE HIGHWAY」のイントロが始まった。
まだ続きがあったのだ。
誰も私に「後ろに下がりなさい」と注意をしてこない。
私はBBのそばでこの曲を全て聴くことができた。
・・・いろいろな想いが頭を駆け巡る。

そしていよいよBBが最後のフレーズをかき鳴らし、曲が完全に終了。
私は拍手が鳴り響く中、BBの目の前に立ち上がりバラの花を高く掲げた。
BBが私に気が付いてジッとこちらを見つめる。
無言でピックをベーシストに渡し、
「彼女に上げて」とジェスチャーをするBB。
ピックをもらった時、私は嬉しさと恥ずかしさで、お辞儀をするのがやっとだった。

早くこの場から立ち去らなければいけないと思って、
ステージから離れようとした矢先、BBが私に向かってしゃべり出した。

「Domo!(どうも!)」
BBは自分の上着に付いているバッジを外そうとしている。
私は急いで彼の前に行った。
するとBBは、「That's my one word in Japanese.」と言った後、
日本語ではっきり「どうもありがとうございます。」と発音し、
「B.B.KING」の文字が入ったバッジを
私にプレゼントしてくれたのである。

「まさかバッジまで・・・」
戸惑いと喜びが入り混じる中、
私は「ありがとうございます」と言って頭を下げる。
するとBBは「どういたしまして。」と再び日本語で答えてくれた。
シーンと静まり返っていた会場に拍手がこだまする。

私はピックとバッジを握り締めながら通路を戻り、
そのままホールの外へ出た。
BBが「ROCK ME BABY」を歌っている声が遠くの方で聴こえる。
ゆっくり手を広げてみる。
ピックにもバッジにもBBの名前が入っていて、
楽屋のテーブルの上に積まれていたバッジとは別のものだった。
「信じられない・・・BBが私の事を覚えていてくれた。
昨日の服装とはまるで違っていたのに・・・嬉しい・・・」
気持ちを落ち着かせてから中へ入ると、
会場内は「Rock me〜!」「 Rock me〜!」の大合唱。

「THE THRILL IS GONE」のイントロが始まると、
ますます拍手が大きくなる。
この曲のギター・フレーズはクールでカッコいい。
私の大好きな曲。
テンポがエンディングのあたりから徐々に早くなり
BBはサスティーンをかけて高いBの音を20秒程引っ張り、
ダイナミックにスライドさせた。
もの凄いインパクトだった。

「PLEASE ACCEPT MY LOVE」のBBの声はあまりにも切なかったが、
次の「I KNOW」では、ご機嫌なリズムに合わせてジャンプするように歌っていた。

「わかっているよ。もう僕のことなんか愛していないんだろう。
今までのようには・・・ 今までのようにはね。
もうこれ以上傷つけられるのはゴメンさ  これ以上はね・・・」
詩の内容とは裏腹に、ビートがきいたノリの良い曲。
今回のステージのフィナーレを飾る曲だった。

BBが「I know〜」と歌うと観客も大きな声で「I know〜」と一緒に歌う。
会場全体が一丸となってBBに熱い声援を送る。
曲の合間にBBはたくさんの人にお礼を言っている。
「ライト係りの人、ありがとう。セキュリティー係りの人ありがとう・・・」
一緒にライヴを盛り上げてくれたココ・テイラーや
ボビー・ブランドの名前も出して敬意を表していた。
「明日はイースターですね。
皆さんにとってハッピーな一日でありますように。」と私達に語りかけ、
最後に残してくれたメッセージは・・・
「Again・・・My name・・・B.B.KING!  We love you!」だった。

一人の人間が、何千という観衆の心をエキサイトさせ、
皆の気持ちは一瞬のうちに高揚し、その後解放感と充実感に満たされる。

私は心の中でお礼を言った。
「BB・・・たくさんの幸せをありがとう!
今晩あなたが私にくれた真心は決して忘れない・・・」


<04・5・29>
Presents from B.B. King